こんにちは!多摩病院産婦人科医です。
本日は、母と子の『愛着形成』についてお話します。
わが子にとって母親は安全基地
母子の関係性(母子の相互作用)には、母親の我が子に対する守りたいという気持ち・情緒的絆であるボンディングと乳児が保護を求めて泣き、しがみつき、後追いし、近づこうとする本能、やがて母親を「安全基地」としながら探索を繰り返していくことで、世界を広げていくためのとても重要な機能である愛着行動があります。
これは片側からの一方通行ではなく、母親→子、子→母親の双方向からの行動が必要で愛着形成されます。
この愛着形成の臨界期(脳の中で覚えたり感じたりする神経回路が、外からの刺激により集中的に作られたり、神経回路の組み換えが盛んにおこなわれる時期)はなんと1歳6か月までなんです。
この頃まで、母親は安全基地の提供や、子に求められたら応える安全基地の応答性を磨かなければいけないのです。愛着し、安全基地を持つことは「生きる意味」を得ることです。
叱って厳しくするだけでもなく、甘やかして好き放題にさせるだけでもなく、その中間の選択肢があります。それが「安全基地になる」ことです。
本人の主体性を尊重しつつも、助けが必要な時はすぐに手を差し伸べる。時には叱ることも必要だが、それはあくまでも本人を危険から守るためです。
本人が求めているものを汲み取ることが上手な応答が必要です。本人の言葉に耳を傾ける事、そのまま受け止める。不満や愚痴を受け止める。
自分が主役になってしまう人は「安全基地」になれません。求められていないことは言わないことも大切です。
人を幸福にする3つの生物学的なしくみ
ひとにはホルモン系が備わっており、幸福にするホルモン系が3つ存在します。
①エンドルフィン
②ドーパミン
③オキシトシン
①エンドルフィン
エンドルフィンは脳内麻薬とも言われています。
満腹感や性的絶頂時に分泌されます。
②ドーパミン
皆さんに中にはご存じの方もいらっしゃると思いますが『報酬系』ともいわれています。困難な目的を達成した時の「やった!」という快感や再び努力して次の目標を達成しようというモチベーションが生み出されるもです。
しかし、これが悪用されると、ドーパミンの短絡的放出が起こります。具体的には依存症が起ります、麻薬、アルコール、ギャンブルなどが典型例です。
③オキシトシン
いわゆる『しあわせホルモン』の代表ですね。
愛着形成、基本的安心感を人に無条件に喜びを与えてくれる仕組みが愛着を支えている
オキシトシン系で、これがひととして生きていく上で非常に大切なのです。
愛着機能不全から愛着障害へ
実はこの中でもオキシトシン系がうまく働いているかどうかと言う事が、ひとの人生において非常に大きな違いを生むことになるのです。
1歳6か月までに良好な愛着形成がされないと不安定な愛着のまま大人になってしまうといわれています。愛着機能不全(別のカテゴリーで愛着障害として取り上げる予定です。)は過食、セックス依存症などに陥ったりします。
またいわゆる仕事人間となり、こころの隙間を埋める術がなくなり頑張り続けるか、奈落に落ちるかの二者択一の状況に置かれているとても過酷な人生になってしまいます。
不安定な愛着は生きようとする力や生きることを楽しむ力自体を弱めてしまいます。人が生き延びるためには、日々の苦痛に耐える「意味」が必要だという事です。
その「意味」を与えてくれるものが「愛する者との絆」・「未来に向けた希望」です。人はこの世に苦痛しかないと感じた時に死を選びます。わが子がこうならないためにも『愛着形成』が非常に大切であることが分かってくれたと思います。
かの文豪には愛着障害が多かったといわれています。川端康成、三島由紀夫、太宰治、夏目漱石、井上靖・・・。
実は私も物心つき始めたころから❝母親❞には漠然とした違和感があり、もう天命という年齢に手が届くところまできて自分が『愛着障害』であることがわかりました。
最も顕著な症状は母親に甘えることができなかったことです。自分にとって、母親が安全基地ではなかったんですね。
愛着障害に精通している精神科医で作家でもある岡田尊司先生の著書を読んでわかりました。
次回は当院での妊婦健診から分娩、分娩後の周産期メンタルヘルスケアについてお話ししたいと思います。まだまだコロナ禍は続きますが、妊婦の皆さん今日も頑張っていきましょう!
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