こんにちは。
多摩病院産婦人科医師です。
本日は妊娠中の授乳って大丈夫なの?という疑問をお持ちの妊婦さんへお送りします。
出産と授乳にかかわる神秘的な2つのホルモンを中心にお話しします。
ご参考になれば幸いです。
結論から言うと、以下に述べている理由で妊娠中の授乳は大丈夫であると思います。
妊婦さんに知ってほしい2つのホルモン
・初期流産は正常に妊娠が成立しても約15%で起こり得るものですが、約半数は受精の段階での異常であると言われています。なので、授乳していたから流産したとは言えないと思います。
・太古の昔から人類に備わるホルモンの機能
我々人間を含めた哺乳類には、授乳をすることで妊娠する間隔をあけたり、母体の身体の回復を促進したり、母と子が共倒れしないようにと、すごい生理的な機能が備わっています。
吸啜反射はその1つで、赤ちゃんが乳頭を吸う刺激は下垂体前葉という部位に働き、母乳の産生を促進するプロラクチンというホルモンの分泌が亢進します。授乳を頻回に行うことにより母乳哺育(ほいく)が進んでいきます。
他方ではプロラクチンには排卵抑制作用があるので、授乳により月経の再開を遅らせて妊娠しにくい状態にしてくれています。授乳はプロラクチンの分泌が亢進することで、実際は妊娠成立に対しては抑制的に働いていると考えられます。
もう1つのホルモンがオキシトシンです。これは下垂体後葉から分泌されるホルモンです。オキシトシンについては、【幸福】今日からできる|幸福を高める5つの方法も合わせてご覧ください。
陣痛開始の時の陣痛を促進させたり、プロラクチンと同様に出産後の子宮収縮を促進(後陣痛)させたり、授乳を促進させてくれます。この2つのホルモンはまさに人類の神秘です。
しかし、妊娠している子宮や胎児に対して、このオキシトシンがどのような影響を与えているかは未だよくわかっていません。
正常な妊娠であれば、しばらくの間は子宮収縮作用のあるオキシトシンは、子宮に作用しないことが分かっているため、授乳した程度で流産しないことは判明しています。
特に経過に問題がなければ、授乳を続けてもかまわないと思います。しかし、授乳中にお腹(子宮)が張りやすくなる、不正出血があるなどの切迫流産や切迫早産の症状がある場合には、授乳を控えることが望ましいと思います。
授乳が母体に及ぼす影響(メリットとデメリット)
・メリット
母児間の愛着形成には、母乳栄養は非常にメリットになります。
また、母乳に含まれる栄養素は児の免疫機能などに良い面もあります。
・デメリット
妊娠すると母体の栄養の必要量が増えますし、さらに授乳が加わると栄養量を増加させるため、母体の総合的なエネルギー不足のリスクが懸念されます。
妊娠時期によってはつわりが出てきて母体の体調がすぐれない、授乳による睡眠不足も
出てきます。授乳の間隔があくと乳腺炎などを引き起こすこともあります。
もともと、切迫流産、切迫早産と診断された妊婦さんは授乳しないほうがよいと思います。授乳が子宮収縮を促進する可能性はあります。
授乳に関する文献的なデータ
・WHO(世界保健機関)は、児の免疫機能がしっかり機能してくる2歳ぐらいまでは免疫成分を含む母乳を続けたほうがよいとしています。
2歳までは欲しがるだけ母乳をあげることを推奨しています。このあたりは諸外国の事情もあり、日本でもそうしないといけないわけではありませんが。
・日本の「後ろ向き研究」(エビデンスレベルは低いですが)では妊娠中に授乳していた妊婦と授乳していなかった妊婦の比較では流産率に差はありませんでした。
・アメリカの2019年に発表された妊婦さんの授乳についてのデータでは、完全母乳での授乳中の妊婦と授乳していない妊婦との比較について、授乳していた妊婦では3.9倍流産しやすくなるという結果でした。
ただ、具体的にどれだけの授乳量か授乳期間については明らかになっていませんでしたので何とも言えません。
したがって、妊娠中の授乳が流早産に影響するしっかりとした根拠のあるデータがないのが現状です。当然、人間が対象なので妊娠中に授乳するグループと妊娠中に授乳しないグループを前向きに無作為に比較するデータをとることはできませんが。
まとめ
すぐに断乳する必要はありません。妊婦さんひとりひとりケースバイケースで考えていきましょう。つわりに時期などに無理に授乳を継続する必要はありません。
悩んだときは相談しましょう。妊娠継続と授乳を両方するのは身体的にも精神的にも、非常にエネルギーを必要とします。
お母さんの健康状態を考慮して、卒乳のタイミングを助産師や産婦人科医師と相談しましょう。妊娠中の授乳については、疑問に思っている妊婦さんも多いと思います。助産師からでも気軽に相談してください。
おなかの張りや不正出血などの症状がある場合には、授乳は控えましょう。
まだまだコロナ禍は続きますが、妊婦の皆さん、今日も頑張っていきましょう!
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